これまで鶴来は素通りばかりで、菊姫を買いに行くでもなく蕎麦を食するでもなかった。本日、大晦日の予行としてソバ食い目的での鶴来行き決行。といっても車で30分だが。行き先に選んだのは草庵。建物が大きく古い民家で、白川郷の農家よりも小ぶりながら、柱とか梁とか重厚で、囲炉裏もある。さらに薪ストーブで過剰なくらい暖かくしてある。私は鴨せいろ。濃いダシの鴨鍋に盛りソバをつけて食べる。盛りソバは細めでカフェラッテ色。表面の粘性は高いが、少し噛むと脆くも口内で分解し、いつまでもネチネチ来ない。歯ごたえかなり強いが、噛めばすぐ分解する様は、まあ例えるなら、餅から一歩二歩煎餅のほうへ踏み込んだかのようでもある。生麩とは対極で、普通の麩を少し戻したとでも言えば良いのやろか。香りは店中がソバで、いきなりソバ茶が出たりもして、どこまでが今食べてるソバに由来して、どこからが雰囲気なのか判別しがたい。しかし心地よい香り。山椒などかけたく無い。鴨にも、添えられたネギにも満足。
糸公他3名は天ぷらそば。これは掛けそばと、別盛りの野菜てんぷら。ピッコロ嬢のかけそばを減つること半分くらい。こちらは、盛りよりも太くて色が濃い。カフェラッテよりむしろミルク入り普通のコーヒーに近い。紫系も入ってる。表面の舌触りは猛烈に粘っこい。鍋でうどんを炊き込んだ時のように。しかし、これも表層の話であって、ソバの奥では粘性は急速に失せて(たぶん半径の3乗に反比例してる)、中心近辺では水分を排除しがちな領域となっていき、そこでは脆くなっている。鉄筋コンクリートで粘っこい鉄と脆いが曲がりにくいコンクリートの2つの個性がすばらしく協奏しているようにして、ここでもネバさとモロさがうまいハーモニーを奏でている。それぞれがソバ中のどのような成分によるのか、興味は尽きない。出しの色も味も濃い。ミリン・カツオ系の甘味を欠くように思う。少なくとも都の基準では、これは関東風に近い。とはいえ、東京近辺の駅ソバほど黒々した液体で行水しているわけではないが。これはこれで野趣があっていい。というか、これこそが本来のソバであって、都では思いっきりアレンジして食べてるだけのことなのだろう。天ぷらは、ゴボウ・茄子・豆腐・銀杏・玉ねぎ・鞘エンドウなど多彩で、カラリと揚がっている。お代はいづれも1680円。いづれも高価だが、味も雰囲気も行くに値する。本日は、わざわざここへ行くために旅行を計画したので(車で30分ながら)、ミシュランの定義なら3つ星となってしまう。